第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
それから数週間。
優くんもすっかりお店に馴染んで、人手不足だった頃の目まぐるしい忙しさは解消されつつあった。
それでもランチ時はやっぱり忙しくて、慌ただしく時間は過ぎていく。
今日もゆっくりひと息つく暇もなく、夕方の開店時間を迎えた。
そんな時、トラブル発覚―――。
「ヤバいな…」
「団体予約入ってるの忘れてたって…しかもコース料理…。材料足りんの?」
南さんと優くんは神妙な顔つき。
傍らではバイトの紗菜ちゃんが真っ青な顔をして泣きそうになっている。
どうやら数週間前に電話応対で団体予約を受けたはいいけれど、それを予約リストに挙げるのを忘れていたらしい。
「本当にすみませんっ…!」
何度も頭を下げる紗菜ちゃん。
確かにミスなんだけど、今はまず対処方法を考えなきゃね…。
南さんたちは、店内のお客さんの数や食材のストックをチェックしてる。
「取り合えず、コースに使う材料が優先じゃね?今からの注文はメニュー削らなきゃしょうがないな」
「そうだな。この三つはもう注文取らないで」
「はい…!」
メニュー片手に南さんは彼女に指示する。
「武田さんもヘルプ頼める?」
「わかりました。じゃあ、調理系のデザートも注文取るの止めといてくれる?」
「はい…」
アイスクリームやショーケースにあるケーキやプリンなら、バイトさんに出してもらえる。
今日は料理を優先させないと。
強張った顔をした紗菜ちゃんの肩をポンポン叩く。
この感じじゃ、またミスしてもおかしくない。
「大丈夫。南さんと優くんが何とかしてくれるから。気持ち切り換えよ?そんな顔してたら、お客さんに心配されちゃう」
「はい…」
予約のお客さんが来るまで、時間の猶予はない。
早速それぞれの仕事に取りかかる。
私に出来るのは、食材の下ごしらえ。
足りない分の野菜を切って、魚介類の下処理。
それから南さんたちが作った料理の盛り付け。
優くんが来る前にも手伝ってたことだから、難しい作業じゃないけど…。
何せ今日はスピード勝負。
二人が次々仕上げていくメニューを横目に、気持ちが焦る。