第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「―――ってことがあってね?でも優くんて変に茶化したりしないんだね。サラッと流してくれて」
その夜。てっちゃんとの電話で、優くんとの朝の出来事を話す。
すると電話の向こうからムスッとした声が届いた。
『ナニ?ヘビ野郎のこと優しくていい人、とか思ってんの?』
「うん」
『あいつホンットヤラシイから、マジで気を付けろよ』
「なぁに?ヤキモチ?」
『バーカ。忠告だっつの』
「へぇ?全然?少しも?ヤキモチ妬いてない?」
『……』
黙り込むてっちゃん。
続く言葉を待っていると…
『少しだけ、な…』
心持ち小さな、ぶっきら棒な声。
てっちゃんて、ああ見えて結構素直。
そんなところも好きだったりするのだ。
「心配しなくても、気を付けるも何もないよ」
『ハァ?あいつ彼氏に立候補する、とか何とか抜かしてただろ?』
「あんなの社交辞令じゃない。てっちゃんだって昔言ってくれたことあるでしょ?失恋した時、私を励まそうとしてさ」
あの時のてっちゃんは、まだ18歳だった。
それなのに失恋した私に言ってくれたっけ。
"俺がもう少し大人だったら、梨央ちゃんの彼氏に立候補するのに"
って。
今思うと、随分と大人な慰め方。
『……社交辞令じゃねぇよ、あん時のは』
「え?」
『半分本音だった。高校卒業したてのガキじゃなければ…もう少し俺が梨央に近い場所にいたら…。彼氏になりたいって言っても許されるのかなって、思ってた』
「…………。や…、なに…それ。嘘……」
『嘘じゃねぇよ』
そんなの、初耳……
もう……どうしよう……
「…てっちゃん、狡い。今更そんなこと…嬉しすぎて…困る」
『困んなよ。昔の話』
「うん…」
『でも、俺たちは今のタイミングだから上手くいったのかもしれない。だから…』
「ん?」
『大切にするよ、梨央』
「…私も」
てっちゃんの発言があまりに衝撃的で…
それから、今 "好き" って気持ちが通じていることが幸せで…。
優くんのことは、もうすっかり頭から抜けてしまっていた。