第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「悪いねぇ、黒尾くん。わざわざ仕事の後に」
「いえいえ。こちらこそ、わが社のご利用ありがとうございます」
閉店後。
南さんの旅行の申し込みのために、てっちゃんが訪れた。
テーブルに並べられた書類に、ペンを走らせている南さん。
二人の脇に、そっとコーヒーを置く。
「サンキュ」
「ううん」
「今日、うち来る?それとも梨央んちのがいい?」
「ちょっと…そういうことは二人になってから…」
まるで南さんがいないかのように、そんなこと聞いてくるてっちゃん。
案の定、南さんが茶化してくる。
「それくらいで照れちゃって。武田さん可愛いねぇ」
「そうなんですー。うちの彼女可愛いんスよ」
「……」
いちいち相手にしてたら、この人たちの思うツボ。
こういう時はスルーに限る。
「はい、黒尾くん。書けたよ」
「どうも」
てっちゃんは書類を受け取って、それに目を落とす。
「えっと…、…………え…?」
「どした?」
「 "南" さんって…名前だったんですか?」
「あれ?言ってなかったっけ?女みたいだろ?昔はよくからかわれたよ。南ちゃ~ん、ってね」
「苗字…コレ、ダイショウっすか?」
「そう。大将南」
てっちゃんと南さんがそんなやり取りをしていると、厨房から大きな人影が顔を出す。
「兄貴、店の鍵どうしたらいい?」
現れたのは、今日から一緒に働くことになった南さんの弟。
思わぬ再会に今朝は驚いた。
花火会場でたまたま携帯を拾ってくれた男の人が、まさか南さんの弟で。
その上、同じ職場で働くことになるなんて。
話を聞いたら二つ年下らしい。
物腰は柔らかいし礼儀正しいし、爽やかなイケメンって感じ。
上手くやっていけそうで、ひとまずはホッとしてる。
「ああ、ちょうど良かった。お前もこっち来いよ。黒尾くん、今日からうちで働くことになった…」
てっちゃんが顔をあげる。
「弟の、優」
近づいてきた優くんが、そこで動きを止めた。
私を通り越して、てっちゃんと視線を交わらせる。
「……」
「……」
「「ああぁーっ!!」」