第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
*夢主side*
楽しかった夏休みもてっちゃんとの旅行も、終わってしまった。
まだまだ暑さは厳しい。
今日も日差しは、容赦なく照りつける。
日常が戻ってきた。
電車に揺られ改札を抜け、店までの道を歩く。
既にじんわり滲む汗が不快だけれど、この夏沢山楽しんで癒されて、充電もできた。
また今日から、頑張ろう。
「おはようございます!」
「ああ、武田さん。おはよう。どうだった?休みは?」
「楽しかったです。旅行にも行って…あ、これお土産です」
「気ぃ遣わなくていいのに。ありがとね」
職場のみんなへ買ったお菓子を渡して、南さんと世間話。
「南さんはどこか行きました?」
「いや、今回は彼女が仕事でさぁ。秋の連休で旅行するつもり。あ、その件で今日黒尾くん呼んだから。一緒に帰れば?」
気を遣ってくれる、南さんの言い方。
てっちゃんと付き合っていることを話した時はいつものオーバーリアクションで驚かれたけど。
でも、自分のことみたいに喜んでくれた。
本当、私は周りの人に恵まれてる。
「あ。今日から弟が一緒だから、よろしくね。もう来てて、今着替えてる」
「あ、はい。こちらこそ」
店が人手不足で、南さんが呼んだ弟さん。
怖い人だったらどうしよう。
いやいや、南さんに似てすごくお喋りだったりして。
少し緊張しつつ弟さんが来るのを待ち構えていると、厨房の扉が開いた。
「ねぇ、兄貴。これちょっと小さいかも…」
「え?そうだった?お前そんなデカかったっけ?」
「丈ってより、肩幅が…」
そう話しつつ私に気づいた弟さんは、こちらに視線を向ける。
「…………」
「…………」
一瞬、時が止まる。
そして……
「「あーっ!!」」
二人同時に叫んでいた。
「「携帯の!」」
スラッと背が高くて切れ長の瞳の……夏帆いわく、"ヘビ顔男子" 。
あの花火の日、私のスマホを拾ってくれた彼が、そこにいた。