第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
そっちが遊ぶつもりでも、俺はこう返してやる。
「悔しいくらい好きだけど?」
これは冗談抜き。
マジで、悔しいほど…好きだ。
「私も…好きだよ」
湯船の中で向きを変えた梨央は、俺の体に腕を回した。
滑らかな背中に手を添えると、湯けむりの中の艶っぽい唇が動く。
「こんなに好きになってくれる人が現れるなんて、思ってなかった」
「……」
「こんなに誰かを好きになれるなんて、思ってなかった」
「俺も」
「しかも、その相手がてっちゃんだなんて、もっと思ってなかった…」
「うん、俺も」
過去にタイムスリップして、まだガキの俺に「お前の未来の恋人は梨央ちゃんだぞ」って教えてやったら、ぶったまげるだろうな、きっと。
そんな非現実的なことが頭を過るほど、あの頃の俺からしたらあり得ない。
気持ちが大きくなり過ぎて、時々不安になる。
優しく抱き締めてるだけじゃ、足りなくなったりしないだろうか?
力加減がわからないまま締め付けて、梨央を壊したりしないだろうか?
幸せ過ぎると怖くなるって、誰かが言ってた気がする。
胸の中の漠然とした不安は、ゆらゆら揺れるこの水面のようだ。
「てっちゃん、大好き…」
それでも梨央は、いつもこんな風に一瞬で幸せに引き戻してくれる。
俺だって…
好きで、好きで、好きで……
"愛してる"
流石の俺も、この言葉は勇気がいる。
でも、いつか必ず伝えるから
待っててくれよな―――。