第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
室内でも、全くの屋外でもないこの場所で、散々淫らな行為に溺れた俺たち。
寝る前にもう一度露天風呂を堪能しようと、二人湯舟に体を浸ける。
情事後の熱もあるから上半身は外気に晒して、二人して浴槽内の足場の部分に腰掛けた。
梨央の体は、さっきみたいに俺の足の間に。
「髪…伸びたな」
桜の頃、顎のあたりで切り揃えられた梨央の髪は、小さくちょこんとひとつに結わえて俺の目の前にある。
「また、伸ばそうかと思って」
「そっか」
「てっちゃんはどっちが好き?長いのと短いの」
再会した時、髪を切った梨央に無性に寂しさを覚えた。
俺の知ってる "梨央ちゃん" じゃなくなっちまった気がして。
でも、今は……
「どっちでもいい」
「えー?興味ない?」
体をよじって俺を見上げると、酷いなぁ、なんて言いながらクスクス笑う。
興味ないわけないだろ?
んなこと、梨央だってわかってるはず。
「どっちも似合うし、どっちも可愛いし、どっちも俺の好きな梨央だから。髪が長いとか短いのとか、関係ねぇの」
梨央は少し驚いた顔をすると、照れたように目を伏せた。
「てっちゃんが真面目モードだと、何かすごく恥ずかしいんですケド…」
「ハァ?俺はいつでも真面目ですケド」
「ふふっ…。でも嬉しい。ありがと」
俺の手に、梨央の手が重なる。
それから、ふぅっ、と大きく息を吐いた。
「ロングだとね、寝癖ついてもまとめ髪しちゃえばいいから楽なんだー」
……?
「マメに美容院行かなくていいし」
……何だ?もしかして。
「昔から髪長かったのって、それが理由?」
「え?うん」
……マジで?
俺はてっきり、女らしさを表す手段というか、こだわりのひとつなんだとばかり…。
「乾かすのは大変なんだけどねー」
あはは、とあっけらかんと笑ってる。
俺があの頃抱いていた梨央への幻想が…。
「俺の "梨央ちゃん" を返してくれ…。そんなものぐさな理由だったなんて…」
梨央の肩にガックリ頭を落とせば、またおかしそうに笑う。
「え?なぁに?ものぐさな私は嫌いなのかな?」
クソ…。この遊ばれてる感…。