第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
緑豊かな風景と白い建物を後にした私たちは、またバスに揺られて今度は宿泊予定の旅館へ。
このバスが到着するのは、ちょうどチェックインの時間の頃合いだそうだ。
20分程走ってバス停を降りてすぐ。
見えてきたのは、茅葺の門が構える老舗旅館。
フロントの対極には、ガラス越しに情緒ある庭が広がっている。
竹林に、鯉が泳ぐ池、楓の木。
ここにも色づく緑。
四季それぞれの風景が楽しめそうだ。
チェックインを済ませると、私たちは仲居さんに連れられ、色浴衣の置いてある場所へと案内された。
「お好きなものをどうぞ」
「え?いいんですか?」
そこに並べられた、色とりどりの浴衣。
男性用も女性用もあって、好きなものを選んで着られるらしい。
「ねぇ、私の浴衣選んでくれない?」
「いいの?」
「うん。てっちゃんに選んでもらったのを着たい」
花火は一緒に行けなかったから、お気に入りのあの浴衣はお披露目できないけど。
せっかくだもん、てっちゃんが私に似合うと思ってくれる一着を着たい。
「じゃあ、俺のは梨央が決めて」
「わかった」
てっちゃんは沢山ある中から何着か見繕って、私の姿と交互に見比べる。
そして。
「これだな」
選んでくれたのは、紺の布地に桔梗の花が染められた浴衣。
白と淡い青がグラデーションになっている。
大人っぽくて、しっとりとしていて、上品。
こういうの、似合うと思ってくれたんだ。
「素敵。ありがとう」
今度は、てっちゃんの浴衣を私が選ぶ。
実は、最初から着てほしい色味は決まっている。
淡い色より、やっぱりシックな濃い色。
私が惹かれたのは、黒地にうっすらと白い縦縞の入った浴衣。
仲居さんが言うには、"縦縞しじら" って呼ぶそうだ。
自信を持って言う。
絶対!
めちゃくちゃ!
似合う!
「てっちゃんはコレね」
「決めるの早ぇな。適当に選んでね?」
「失礼しちゃう!着てる姿が目に浮かんだんだもん!絶っ対っ!似合うからっ!!」
「あー……そう?」
いつになく私が前のめりに力説するから、てっちゃんはあっさり引き下がった。
お互いが選んだ浴衣を抱えて、仲居さんの後を付いていく。
エレベーターを降りていくつか部屋を通り過ぎると、私たちが宿泊する部屋に到着。
靴を脱いで上がった和室は、想像以上に素敵な空間だった。
