第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
はしゃぎながら過ごしていたら、目的地まではあっという間。
降り立ったのは、のんびりした自然を感じる風景。
ゆったりと走るバスや、喧騒に掻き消されることのない、鳥のさえずり。
これだけでも日常を忘れられる。
てっちゃんが手荷物を旅館まで運んでくれるサービスを手配してくれていて、一気に身軽になった。
「さて。じゃ、まずは美術館だな」
「うん。絵は全然詳しくないんだけどね。美術館の雰囲気って好きなんだ」
「あー、何かわかるな。ナントカ派とかわかんねーから、取り合えず『すげぇ』しか言えねぇけど」
「そうそう!『すごい』しか言えないよね!」
絵に詳しい人に聞かれたら、怒られちゃうかな。
でも、絵画って何年もかけてひとつの作品を描き上げるって聞くし。
それだけでもう、「すごい」としか思えない。
絵とか音楽とか、芸術方面にセンスのある人って憧れちゃうな。
駅から直通のバスに揺られると、森林の中に近代的な白い建物がポツンとそびえ立つ。
比較的、新しい美術館。中に入ると、空調を効かせたひんやりとした空気が全身を包んだ。
規則正しく並んだ色彩や彫刻を、ひとつずつ眺めていく。
「すごい…」
「すげぇ…」
タイミング同じくして漏れた声に、思わず顔を見合わせる。
声を上げないように二人で小さく笑った。
「あ、あれ見て」
進む先に見えたのは、睡蓮の絵。
これは有名だよね。
「「教科書に載ってた」」
また目と目を合わせて、肩を震わせる。
とことん同じレベルの二人だ。
でも、だからかな。
普段来ないようなこういう落ち着いた場所でも、気後れせずに済む。
「赤葦がさ、あいつ絵上手いんだよな。確か賞とか貰ってたはず」
「バレー上手くて絵も上手いって、狡くない?」
「ほんとソレ」
「でも何か似合うなぁ、絵描くとか」
赤葦くんは美術館の学芸員をしていて、この場所も彼にオススメされたみたい。
赤葦くんと言えば…
汐里ちゃんと、どうなったのかな…。
ああ…てっちゃんとのことが誤解だったからって、ゲンキンな私…。