第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
拾ってくれた人がいい人でよかった。
こんなにすぐ手元に戻ってくるなんて、運がいいよね。
「結構カッコイイ人だったねー!背も高くてさ」
夏帆がさっきの彼の後ろ姿を見ながら、声を弾ませてる。
「そうだね。シュッとしてた」
「シュッて!オバチャンか!私の好みとは違うけど、ああいうヘビ顔系男子もいいかも」
「何か男子のジャンル分けっていっぱいあるんだね…」
塩顔とか何とか、私には基準がよくわからない。
「夏帆、ほんとありがとね。いっぱい歩かせちゃってごめん…」
「いいよ!見つかってよかったね」
「うん」
その時、持っていたスマホが震えたかと思えば、着信音が流れ出す。
仕事が終わったのかな?
「彼氏?出なよ。私コンビニで涼んでるからさ」
「ありがと。すぐ行くね」
カランコロンと下駄を鳴らしながらコンビニに入っていく夏帆を背にして、電話に出る。
「もしもし?」
『コンバンハ』
「ふふっ、こんばんは」
『今仕事終わったんたけど。もう家?』
「それがね、さっき携帯落としちゃって」
『え?』
「あ、でもこうして無事に戻ってきたから大丈夫なんだけどね。まだ花火会場の近くなの」
『そっか…大変だったな。あさってのこと話したかったからさ。家着いたらまた電話くれる?』
「うん、わかった。じゃあね」
てっちゃんとの初めての旅行。
その前に、変なトラブルにならなくてよかった。
今度は確実にスマホを和柄の巾着の中に入れて、キュッと口を絞める。
コンビニの自動ドアを抜けると、中はひんやり心地いい。
夏帆が持つカゴの中には、お酒やおつまみ、お菓子が入っている。
今夜はこのままうちにお泊まりの予定なのだ。
夏帆はお喋りが好きな上、お酒もめっぽう強い。
これは、寝かせてもらえそうにないな…。
カゴの中身を確認して、早々に悟る。
まあ、せっかくの夏休みだもんね。
今日は女二人、とことん楽しむことに決めた。