第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「電車すぐ来るかなぁ?時間あるならコンビニ寄りたいな」
「待って。調べるね」
夏帆の声を受けて、私はスマホを取り出すために巾着の口を開ける。
「……あれ?」
「どうしたの?」
手探りで取ろうとしていたスマホが見当たらない。
「え…」
巾着を覗き込んでみる。
そもそも、スマホとお財布、家の鍵、ハンカチ、ティッシュ、しか入れてきてない。
中にスマホは……ない。
「嘘…!」
花火が打ち上がった、あの時。
写真を撮って、この中にしまったつもりでいた。
でも、轟音に紛れて落としたことに気がつかなかったのかもしれない。
「え!?スマホないの!?」
「さっきの場所に落としたかも…!」
「人凄かったし、誰かに拾われてるかもしれないけど…取り合えず戻ろっか!」
「うん、ごめんね…」
「いいって。見つかるといいけど…」
来た道を足早に戻る私たち。
その間にも、大勢の人たちとすれ違う。
ロックしてあるから、悪用されることはないと思うけど…。
色んな人の連絡先も入ってるし、なくなったら困る。
それに、明後日からはてっちゃんとも旅行だ。
連絡とれなくなったら、きっと心配させちゃう。
焦る気持ちのまま戻ってきた場所。
そこに、探しているものは見当たらなかった。
「どうしよう…。誰かが拾ってくれたのかな…」
「拾われたままか、交番に届けられてるか…。ちょっと電話してみよっか。何回か鳴らせば、拾った人も察して出てくれるかも」
「うん…」
夏帆のスマホから私の番号へ発信してもらう。
でも、一回きりじゃやっぱり反応はない。
留守電に切り替わるたびに、夏帆が何度も電話してくれる。
それを五、六回ほど繰り返した時。
夏帆が「あ…」っと小さく呟いた。
「あの!携帯拾ってくれた方ですか?いえ!出てくれて良かったです。そうなんですか?私たち、今会場に戻ってきていて……。わざわざすみません、すぐ向かいますので!」
電話の向こうの人物とサクサクやり取りして、夏帆は通話を切った。