第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「うん。すごく楽しいし、やりがいある。みんないい人だし。でも人手が足りなくてね。お盆明けから、新しい人が入るんだ」
前々から調理の人手が足りなくて、お盆休みが終わったら、南さんの弟が店に来てくれることになっている。
今までは、他所のレストランで働いてたそうだ。
いい人だといいんだけど。
「それ、男?」
「え?うん」
「良さげな人だったら紹介して!」
「独身かどうかわかんないよ?」
そんな世間話をしていたら、心臓に響くくらいの大きな音が、辺りの空気を震わせた。
空を仰いでみると、視界いっぱいの花火が浮かんでは消えていく。
本当、"花火"なんて上手いネーミング、誰が考えたんだろう。
見事なまでの大輪。
黒を背景に、流れ落ちるように長く垂れ下がる菊。
それはまさに、夜空を彩る華だ。
「すっご…!今の見た!?」
「うん…綺麗…」
しばらくの間魅入っていたけど、てっちゃんにもこの華を見せてあげたくなって…。
私は空に向かってスマホをかざす。
何枚かシャッターを押して、まあまあ見られるのが撮れた。
後でてっちゃんに送ろう。
次々と打ち上げられる音が、体に響いてくる。
近くで見るとホント凄い。
火の粉のはずなのに、まるで光のシャワー。
「凄いね」と「綺麗」って、何回言っただろう。
私と夏帆は、そればかり繰り返す。
時間が経つのはあっという間。
ラスト、息つく隙もないほど次々現れる火の光に、私たちは吸い寄せられるみたいに引き込まれた。
轟音も輝きも嘘みたいにピタリと消え、代わりに沢山の人たちの声がクリアに聞こえ始める。
名残惜しいけれど、また来年までお預け。
ゾロゾロと帰っていく人並みの中、私たちも立ち上がった。
「綺麗だったね。また来たいな」
「私も。早く一緒に来れる男探さなきゃ!」
そう息巻く夏帆。
アクティブな夏帆は、いつも気づいたら彼氏ができている。
きっとこの次も、そうだと思う。
二人で下駄の音を響かせながら、駅までの道を歩き始めた。