第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「気持ちはありがたいけど。俺、彼女にベタ惚れだから」
「……」
冷たいか?
でも、半端な優しさは傷つける。
成瀬はそれきり黙り込んだ。
目に映していたドラマは頭には入って来ない。
そういえば、梨央にLINEの返信してねぇな。
スマホは置いてきちまったし…。
まあ、部屋に戻ったらすぐ返すか。
そんなことを考えているうちに、徐々に頭がボンヤリしてくる。
一日の疲れが一気に襲ってきた感じだ。
意思に反して自然と下りてくる瞼。
成瀬の存在もつけっぱなしのテレビも頭から消え失せて、俺は睡魔に身を任せていった。
唇にふと擽ったさを感じる。
それから小さく届く女の声。
意識が浮かび上がる中、薄く目を開けて体を捩ると……
痛ぇ…。
どうやら座ったまま寝てたらしく、体が変に凝り固まっている。
「おはよう、黒尾くん…。ずっといてくれたんだ…」
声がした方へ視線を向ける。
「……」
朝かよ……。
カーテンの隙間から見えるのは、闇でも不規則な白い稲光でもない。
眩しい朝日だ。
ボサボサの髪をひとつに括った成瀬が俺を見下ろしている。
あーあ、髪乾かさねぇから。
「あれから寝れたの?」
「うん…。いつの間にか」
「そ。よかったな」
立ち上がってひとつ伸びをする。
成瀬はそんな俺の様子を見つつ、「ありがとう」と呟いた。
「じゃ、部屋戻るわ」
あんま眠れた気はしないけど、今日も仕事だし準備しねぇと。
部屋を出ようと、ドアへ足を向ける。
その後ろから、また声がした。
「黒尾くん、ごめん…」
「いいって」
「じゃなくて…」
「え?」
「……ううん。今日もよろしくね」
小さな声と、ボサボサの頭。
清楚系で固めたいつもの完全武装とは、真逆の成瀬。
毒気を失ったようにも見える。
「ああ。よろしく」
成瀬に背を向け、凝り固まった肩を叩きながら、俺は部屋あとにした。
でも。
毒気を失った、なんて感じた俺は甘かった。
そう思い知るのは、もう少しだけ先のこと。