第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「小学生の頃、お兄ちゃんと大喧嘩して…。雷が酷い日だったのに、庭の物置に閉じ込められたの。夜親が仕事から帰って来るまで出してくれなくて…。それ以来、ほんとにダメ……」
「スゲェ兄ちゃんだな」
手持ち無沙汰の俺は、リモコンに手を伸ばしてテレビをつけた。
今流行りのドラマが映る。
そーいや、梨央もこれ好きだっつってたな。
面白いのか?
「ねえ……手、繋いでて……」
布団から少しだけ顔を覗かせた成瀬は、小声でそう言う。
自分に好意を向けている女の手を握るとか、本当は避けたい。
でもまぁ、こいつにとっては非常事態ってことで…。
仕方なく、やむ無く、無言で手を差し出す。
布団からゆっくりと伸びた白い手は、俺の手をギュッと握った。
再びテレビへと視線を戻す。
話の筋もわかんねぇし、出てくる俳優も知らねぇけど、何となく見始める。
「黒尾くん…こういうの見るの?」
「いや、初めて。彼女が見てるっつーから何となく」
「……意地悪ね」
俺は横目で成瀬を見遣る。
「彼女の…っ」
話を割るようにまた雷鳴が響く。
成瀬は瞼を瞑り、言葉を切った。
そして耳につく音が治まったのがわかると、ひとつ大きく息を吐き、続ける。
「彼女の話題出すなんて…意地悪よ」
「聞かれたこと答えただけだし」
「本当に彼女だけ?」
「は?」
「私が入り込む隙間はないの?」
「……」
また、今日何度目かのため息が出る。
俺はキッパリ断ったはずだ。
これ以上、何を言ったらいい?
「あのなぁ…」
「黒尾くん、冷たいこと言うけど困ってる人ほっとけないでしょ?今だって、ほら…」
「お前が人でなし呼ばわりするからだろ」
「そうじゃなくても、きっとそばにいてくれた。だから好きなの…。そういう人だから、好きなのよ…」
いつものはっきりとした口調ではなく、揺らぐ声と瞳。
俺の知る挑発的な成瀬は、今ここにはいなかった。