第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「耳栓で誤魔化せるわけないでしょ!」
「気合いで誤魔化せ」
「人でなし!」
成瀬の部屋の前で押し問答を繰り返していると、横を通りすぎる宿泊客が不審な目を向けてくる。
それもそうだろう。
俺たちの格好にも問題はある。
お互い風呂上がりのラフな服装で、髪は濡れたまま。
こんなとこで揉めてたら、そりゃ怪しげな視線を向けられるってもんだ。
はぁ……。
めんどくせぇけど……取り合えずこの場をおさめるには仕方ねぇか。
「……部屋ん中にいればいいのか?」
諦めてため息混じりにそう聞けば、成瀬は一瞬目を見開き、コクリとうなずいた。
成瀬は髪も乾かさずにベッドへ上り、頭から布団を被った。
外は変わらず、空を裂くような音がうるさい。
すぐに治まる気配はない。
俺は、部屋の端にある一人掛けの椅子に足を組んで座った。
カーテンの隙間から不規則に現れる光に目を向けてみても、視界の隅で成瀬の肩が揺れるのがわかる。
「こっち…来て…」
布団からチラッと涙目の顔を見せて、成瀬は呟く。
最初は芝居かも、なんて半信半疑だった。
女の中には、自由自在に涙を操れる奴がいることを知ってるし。
でも小刻みに唇が震えてるのを見て、その疑いはなくなった。
まあ、落ち着くまでここにいるくらいなら…。
俺も鬼じゃねぇしな。
「昔からそんなんなの?」
ズルズルと絨毯の床を引きずって、ベッドサイドまで椅子を持っていく。
それからまた、成瀬の顔が見える位置に座り直す。