第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
ホテルの部屋へ入り、スーツを脱いで着替えを手に取る。
少し開いたカーテンの隙間からは、窓に激しく打ち付ける雨。
遠くでは雷鳴も聞こえ始める。
浴室に篭り、頭から降り注ぐ飛沫にしばらく身を預けてから、火照った体と共にベッドルームへ戻った。
洗いたての濡れた髪を拭き、ミネラルウォーターを手にする。
冷たいそれをひと口含んでベッドに腰を沈めれば、ようやく今日の業務から解放された気分になる。
ベッドサイドのテーブルに置いたままのスマホをチェックしてみると、今、声が聞きたくて堪らなかった人物からのメッセージが。
[出張お疲れさま。今日はお店に木兎くんが来てくれたよ。明日も頑張ってね!おやすみなさい]
カワイイ猫のスタンプと一緒に送られてきた言葉たち。
俺が仕事でこっちに来てるからだ思う。
返信はいらない、っていうつもりで「おやすみなさい」で締めてるんだろうな、きっと。
思わず笑みがこぼれる。
そんな気遣いはいらない。
梨央と繋がりたいし、俺からも返信しようと画面をタッチしている途中、やっぱり無性に声が聞きたくなってしまう。
メッセージを受信した時間は、一時間前。
成瀬とバーにいた頃合いだ。
あいつと二人きりで軽井沢にいるのは仕事でのことだし、バーで食事したのもその延長。
それなのに、成瀬から想いを告げられたという事実が、意味のわからない後ろめたさを感じさせる。
時間を確認する。
まだ日付は越えていない。
起きてる…よな?
着信履歴から梨央の名前までスライドさせようとしたその時。
画面は、電話の着信表示へと変わった。
そこに浮かび上がった名前に、一瞬ためらう。
ついさっき部屋の前で別れたばかり。
何の用だ?
そう過るけれど、そもそも今俺たちがここにいるのは、仕事が目的。
俺は画面を通話へと切り替えて、スマホを耳元へ当てた。
『黒尾くん…』
「どうした?」
『お願い、部屋に来て』
「何?仕事の話?」
『違う…けど…』
「仕事の話以外なら聞けねぇよ」
『助けて!お願い…っ!』
「……?」
最後の方は、吐き出すような震えた声が聞こえてきた。
何だ……?
よくわかんねぇけど、取り合えず用件だけは聞きに行くことにする。
「今行くから」
成瀬の返事を聞く前に、俺は電話を切った。