第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「春に合コンした時、ふざけて"てっちゃん"って呼ぶ女の子たちに、『その呼び方やめて』って言ったじゃないですか。それも嫌そうに」
「あー…うん…」
「テツさんて基本何でもスルーするのに、ちょっと意外だったんです。でも梨央さんは普通に"てっちゃん"って呼ぶでしょ?テツさんも当たり前のように受け入れてるし。そのやり取り聞いて、アレ?って思っちゃって。
あ、梨央さんはいいんだ。
梨央さんだけ特別なのかな?
ていうか、むしろ梨央さんがそう呼ぶから、他の女の子には呼ばれたくないのかも。
じゃあ、そこに恋愛感情があったりする?
……なんて思ったワケです」
「すごい推理力だね、キミ。コナン好きなの?」
「私、明智警視派です」
「金田一じゃないんだね…」
確かに。
梨央ちゃんにしか呼ばれていなかったあだ名を他の女に呼ばれるのが、何か嫌悪感あったんだよな。
「でもお似合いです。テツさんと梨央さん。大人のカップルって感じで」
「そう?そっちはどうなの?赤葦と」
俺が振った瞬間、汐里は大きく首を振る。
「どうとかないです!連絡もしづらいし…」
「別に連絡くらい、適当にすりゃいーじゃん。"仕事どう?"とか"最近暑いねー"とか」
「えー…?ウザいって思われたら立ち直れないもん…」
汐里は唇を尖らせてうつむく。
普段サバサバしてんのに、赤葦のことになると途端に乙女モード。
てか、こいつ男からアプローチされるばっかだから、自分から積極的にいくってことに慣れてねーんだよな。
「まぁ、またいつでも相談乗るし?」
「ありがとうございます。でも、二人で会うのはもう止めましょう」
「え?」
「だって、梨央さんからしたらきっと気分良くないです。そういうの、大事ですよ」
「あー…。だな」
「また光太郎さんと飲みましょうよ。梨央さんも誘って。テツさんの面白いネタ持ってるかもしれないし!」
「ねぇよ、そんなん!」
「閉店時間近いなら、梨央さんと一緒にごはん行けばいいじゃないですか」
「ああ」
「じゃあ、また!」
ひとしきり喋った後、ブンブン手を振りながら汐里は駅の構内へ向かって行った。