第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「あのね、明後日の軽井沢。浅井さんの代わりに、私が行くことになったから」
「へ?何で?」
「浅井さんのお父さん入院しちゃって、明後日手術されるそうなの」
「そうか…。そりゃ大変だな」
浅井さんはこの部署に配属されてからお世話になってる先輩。
気のいい兄ちゃんって感じで、今では公私ともに仲良くしてもらってる。
ちなみに、例のセーラー服を譲ってくれたのも浅井さん。
奥さんとコスプレプレイするために、ネットで買ったらしい。
明後日は、浅井さんと去年軽井沢にできたレジャー施設へ視察のはずだった。
一泊で……。
「二日間、よろしくね」
「ああ。よろしく」
よろしくねぇよ。
こいつ、モテるクセに何かと俺にちょっかい出してきやがる。
二人きりになるのは正直気が重い。
でもまぁ、そんなこと言ったって仕事は仕事だし…。
割り切ってこなすしかねぇよな…。
「ね、それ終わったら飲みに行かない?」
「んー…やめとく」
「何で?」
「何でも」
「またキスされたら、困る?」
煽るようなその言葉に、俺はタイピングする手を止めた。
成瀬の顔を見上げてみれば、意味深な笑みを浮かべている。
「ったく、誰だよホント。お前を清楚なお嬢さんなんて言っちゃってんの」
「いいよ。この前のことバラしても。別にそういうキャラ演じてるわけじゃないし」
焦りも戸惑いもない、成瀬の淡々とした声。
俺は何も言わず、ただため息をつく。
「黒尾くんって、そういうことはしないよね。できないのかな?どっちでもいいけど。いいな、やっぱり」
俺に言ってんのか、ひとり言なのか。
どっちかわかんねぇけど、返事は求めていないようだ。