第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
その日。
俺はオフィスのデスクにかじりつき、夏休み前に片付けるべき仕事に没頭していた。
心置きなく梨央との旅行を楽しむため。
ブルーライトで酷使した目元を押さえ、腕時計を確認する。
パソコンと向き合いもうひと踏ん張り、と気合いを入れ直した時。
背後から声を掛けられた。
「黒尾くん、まだいたんだ」
振り返ったところに立っていたのは……。
「……ああ。成瀬も残業?」
「ううん…そういうわけじゃないんだけど。経理の部長に捕まっちゃって」
「あのエロオヤジ」
「まあ、しょうがないよ。エロオヤジでも、相手しとけば私に損はないし」
同期の成瀬は、かなり男受けするタイプの女だ。
髪型から化粧から服装から、意識的なのかは知らねぇけど、男の好むポイントを抑えている。
派手すぎず、地味すぎず。
清楚系っていうのか?
見た目は。
ほんっと、女ってのは恐いね。
中身は肉食系なのに。
汐里もギャップあるタイプだけど、あいつは男に媚びてないからつるんでいられる。
でもこいつは……。
「ねえ、まだ終わんないの?」
「んー、もうちょい」
「じゃ、コーヒー入れてあげる」
そう言いながら一度俺の肩に手を添え、給湯室へ足を向ける。
「……サンキュー」
ほらな。
さりげないスキンシップってやつ?
こういうのに弱い男は、少なからずいる。