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フォンダン・ショコラ【ハイキュー!!】

第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】



しゃがんだまま、膝で一歩踏み出す。
深く沈まないようにゆっくりとソファーに手を掛ける。
梨央ちゃんの唇を映しながら、もう一度閉じられた瞳を確認して、そっと……。


「……」


俺に何をされようとしてるかなんてまるで気づかない、無防備な寝顔。
制服姿を褒めただけで照れてた梨央ちゃんを思い出したら、何かすげぇ悪いことみたいに思えてきた。

梨央ちゃんから離れ、改めて声をかけようとした時。
スマホの着信音が聞こえてきた。
聞き慣れないその音。梨央ちゃんのだ。

「梨央ちゃーん。携帯鳴ってるよー」

肩を揺らして起こす。

「ん…?ほんとだ…」

ムクッと起き上がった梨央ちゃんは、テーブルの上のスマホを手に取る。
ディスプレイを確認した表情が、少し険しくなった気がした。

「ちょっとごめんね…」

俺にひと言断ったあと、立ち上がって電話に出る。

「もしもし?梨央です。うん……」

話しながらリビングから出て行く。

梨央ちゃんが戻ってきたら帰るか。
俺はテーブルに置いてあった自分の携帯をジーンズのポケットに入れる。
携帯と財布しか持ってきてねぇよな?
テーブルの下を覗き込んで確認していると、 リビングのドアが開いて梨央ちゃんが戻ってきた。

「俺そろそろ…」

"帰るわ" ――― そう言おうと梨央ちゃんを見上げてみれば、強張った顔をして青くなっていた。


「梨央ちゃん?どうした?」


「……お父さんが…倒れて、病院に運ばれたって」


スマホを握りしめたまま、梨央ちゃんは揺れる瞳で床を見つめている。

「お父さんが……?電話、誰から?」

「叔母さん…お父さんの妹から。今心肺蘇生してて、主治医の先生に…会わせたい人がいたら呼ぶよう、言われたって…っ…」

梨央ちゃんと梨央ちゃんのお母さんを裏切った父親。
梨央ちゃんが転校する原因を作った、父親。


「どうしよう…」


声が震えてる。


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