第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「梨央ちゃんはどうしたい?」
「……」
「ゆっくり考えたいかもしんねぇけど、そんな猶予なさそうだよな?」
俺を見上げて、コクン、と頷く。
「うちを…滅茶苦茶にしたお父さんだから、許せなかったけど……。でも、それまでは…優しくて大好きだった…っ…」
揺れていた瞳からは、涙が溢れる。
きっと、梨央ちゃんの心は決まってる。
「行かなくて、後悔しねぇ?」
「………うん………私……行く」
それがいいと思う。
それならまず……。
「何つー病院?行ったことあるとこ?」
「桂木総合病院だって。行ったことない」
「わかった。俺行き方調べるから、梨央ちゃん準備して」
「ありがとう…!」
梨央ちゃんは自分の部屋に着替えに向かう。
その間に俺は、病院の場所と最寄り駅をスマホで検索。
こっから電車一本で行ける。
所要時間は40分か。
一番早い電車は……それからタクシー。
「ごめんね、てっちゃん。折角来てくれたのに」
「そんなんいいって。音駒駅から電車一本で行ける。今なら20時35分のに間に合うと思う。降りるのは桂木駅。今タクシー呼んだから」
「ありがとう」
「忘れ物ねぇ?携帯、充電ある?」
「あ!ギリギリかも…!」
梨央ちゃんは慌てて部屋にモバイルバッテリーを取りに行く。
戻ってきたら、そのまま二人で玄関へ。
靴を履いてバタバタとドアの外に出る。
「そう言えば!一応傘持ってきな。今夜雨の予報だったぞ」
「ほんと?」
夕方ニュースで流れてた天気予報を思い出す。
傘を一本持って外へ出たところへ、丁度タクシーがやって来た。