第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
テレビはいつの間にかクイズ番組が始まっていた。
二人で正解考えながら、ああでもない、こうでもないと盛り上がる。
合間には、熱い緑茶と俺が持ってきた苺大福を出してくれた。
梨央ちゃんちに持ってきたんだから、別に俺はいいんだけど。
でも「一緒に食べたいから」なんて可愛く言われたら、そりゃ食っちまうよな。
クイズ番組が終わる頃、ソファーで寛いでた梨央ちゃんがウトウトし始めた。
引っ越し間近だし、疲れてるのかもしんねーな。アルコールも入ってるし。
パパッと片付けて帰るか。
「梨央ちゃん、キッチン使って良ければ俺洗い物するけど?」
「んー、お願いー…」
寝惚けたような声で返される。
キッチンに入り、皿とグラスと湯呑み、たこ焼き器の鉄板を順番に洗っていく。
たこ焼きソースとサラダに使ったドレッシングは取り合えずシンクの脇に。
テーブルはどれで拭きゃあいいんだ?
もう一度リビングに戻って、梨央ちゃんの寝顔に近づいた。
すっげぇ気持ち良さそうに寝てる。
何か起こすのわりぃな…。
でもどっちみち帰る時には声かけなきゃなんねぇし。
伏せられた睫毛にピンクの唇。
思わずその場にしゃがみ込んで、まじまじと寝顔を見つめてみる。
梨央ちゃんと付き合いたいなんて、考えたことはない。
別にこれは嘘じゃない。
でも、触れたいと思ったことはあるワケで。
俺、健全な18歳だし。
そういう欲はあるし。
これ、俺がキスしても文句言えねーぞ?
なあ、梨央ちゃん?