第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
てっちゃんはそこでやっと私の顔から少し距離をとると、小さく謝る。
「ごめん」
「ううん…」
ポケットからスマホを取り出して、ディスプレイを確認するてっちゃん。
その眉間に、大層深いシワが寄った。
渋々、といった感じに電話に出る。
「もしも…」
『おーっす!お疲れ~っ!』
こちらに漏れてくる程大きな声。
あ…木兎くんだ。
「何だよ?しょーもねぇ用だったらブッ飛ばす」
『あぁ!?んなこと言うなよ!大ニュースなんだからよ!』
「何?」
『さっきコンビニでさ、何見つけたと思う?なんと!ガリガリ君の酢豚味!!すげくね!?』
「……」
酢豚……。
「大 ニ ュ ー ス っ て、ナ ニ?」
『だーかーらー!ガリガリ君の…』
「てめぇを酢豚にしてやろうか!?あぁン!?やっぱしょーもねぇな!!切るぞ!!」
てっちゃんは電話を切って、挙げ句電源も落としてしまった。
そしてひとつ、息を吐く。
「続き」
そう言って手を伸ばしてくるけど、ひとたび冷静になってみると、玄関でこんなことしてるのが恥ずかしくなってきた。
「うん…。でもせっかくごはん作ってくれたんだし、食べたいな…」
「……」
差し出された手は、ゆっくりと元の位置へ戻っていく。
珍しく、少しバツの悪そうな顔。
「…………わりぃ。こんな時間まで仕事してきたんだから、腹減ってるよな」
「……うん」
私たちはそこでようやく靴を脱いで、てっちゃんが案内するリビングへと向かった。