第2章 この腕の中の君 ※【黒尾鉄朗 続編】
「どうした?梨央チャン?」
「……」
これは…。
意地悪モードだ…。
私が何を言いたいのか、わかってる。
なのに、わからないフリ。
「わかるでしょ…?」
「わかんね」
「嘘…」
「だって俺エスパーじゃねぇよ?言ってくんなきゃわかんねーなぁ」
とぼけながら、私の唇をつついたり摘まんだりして弄る。
「言わなきゃ……ダメ?」
「ダメ」
「もうっ………。キス……して?」
ようやく私がそれを口にすると、満足そうに目を細めた。
「おねだりされるとか、最高」
笑いながら、腰を少し屈めてくれる。
でも一定の距離を保ったまま、てっちゃんは私を見ているだけ。
「梨央からしてくれよ」
……。
もう…
どんだけ!?
私、てっちゃんのペースにハマりすぎだよ…。
だけど、この瞳からは逃げられない。
てっちゃんの目が好き。
少し気だるげな、目尻の上がった目元。
それからツンと尖った鼻も。
いつも口の端を吊り上げてる、唇も。
あれ?
私、てっちゃんの顔も好きなんだ。
顔を寄せて、唇を近づける。
瞼を伏せ、柔らかな感触を重ね合わせた。
今はそっと触れ合わせるだけ。
じゃないと、せっかく作ってくれた食事も一日の汗を洗い流すことも、飛び越えてしまいそうで。
唇を離した私に、てっちゃんは小さく笑う。
「随分控え目だな」
「……そう?」
「足りねぇ。もう少し」
そう言って今度はてっちゃんから。
重ねた唇の隙間から温かな舌が浸入して、絡んで、吐息すら掬われる。
てっちゃんのキスは、あっという間に私から力を奪っていく。
時間を忘れていつまでもこうしていたいくらい、うっとりしてしまうのだ。
その時、スマホの着信音が鳴る。
私のじゃない…。
でもてっちゃんは唇を離す素振りを見せない。
「で…んわ…、いいの…?」
「ん……」
続けられるキス。
そのうちに電話は切れてしまった。
大丈夫なのかな…。
そう思った直後、また同じ着信音が二人の間に響いた。