第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
梨央ちゃんはビールを一缶開けた。
たこ焼きを食べながら、ひたすら他愛ない話をする。
「なぁ、こういう時のお約束だと思うんだけど。卒アル見せてくんない?」
「えー!恥ずかしいなぁ…。まあ、いいけど」
梨央ちゃんはパタパタとスリッパを鳴らして自分の部屋へ行く。
それからアルバムを手にして、またリビングへ戻ってきた。
「どうぞ?」
「梨央ちゃん何組?」
「五組」
「五組ね。あー、いた。そうそう!こんな感じだったわ」
アルバムの中の梨央ちゃんは、ストレートの黒髪で化粧っ気もなくて、それが素朴で。
「セーラー服姿、梨央ちゃんに似合ってて可愛いかったよな」
紺色の生地に赤いスカーフ、襟元にも赤いラインの入ったセーラー服。
中学の時ブレザーだったから、高校の制服姿の梨央ちゃんは新鮮だった。
ミニ丈のスカートから伸びるスラッとした長い足に、ムラム……ドキドキしたっけ。
何か大人しい梨央ちゃん。
顔を上げてみると、ジッと俺を見ていた。
「どした?」
「そんな風に思ってくれてたの?」
「え?」
「えと… "可愛い" って…」
……え?
今更じゃね?
俺わりとそういうことは素直に伝える方なんだけど。
「思ってたよ」
「……そう、なんだ。ありがとう」
はにかみながら、梨央ちゃんが俯く。
え?
何これ?
照れてんの?
んなことで?
大人っぽくて、こんなやり取りなんて適当にかわしそうなもんなのに。
この人、すげー可愛いな。