第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを一本持って、寝室へ。
ベッドに入ってればいい?
座って待ってる?
電気はつけとく?消しとく?
てっちゃんが入ってきたら、何て言えばいい?
てっちゃんは、どんな言葉をくれる?
どんな顔をして私を見つめてくれる?
どこをどんな風に触って、愛してくれる?
短い間に、沢山沢山これからの時間のことを思い浮かべて。
思考回路はショート寸前。
って、誰かが言ってたっけ……?
まさに今の私は、ソレだ。
小さなノックが聞こえる。
返事をすれば、寝室の扉が開く。
ゆったりとこちらに近づいてくる、大きな彼。
この前も思ったけど。
髪、結構長いんだ…。
いつもツンツン立ててるから、何か新鮮。
ドライヤーで乾かした直後の髪は、空気を含んでふんわりと流れている。
どうしよう…すごく、カッコイイ…。
結局電気は付けたまま。
私はベッドに腰掛けた状態で、スマホで特に見たくもないファッションサイトを開いていた。
ベッド脇のサイドテーブルにスマホを置き、代わりにペットボトルを手に取る。
ショートしかけた思考回路を、何とか再起動。
「水…飲む?」
「飲む。ありがと」
隣に並んだてっちゃんがペットボトルを受け取ってフタを開け、ゴクッと水を飲み込んだ。
私の体を跨いでそれをサイドテーブルに戻し、その動作の流れで……
肩に触れられた。
私たちの足はピタッと密着する。
「起きててくれて良かった」
「そんな…。寝ない…よ」
「寝てたら、イタズラして起こすつもりだったけど」
「イタズラ、って…?」
「俺の想像の中では、梨央ちゃん、もういっぱい俺にイタズラされてるよ?こんな感じに…」
その口が弧を描いたと思ったら、そっと唇が触れる。
水を含んだばかりの、冷たくて濡れた唇。
ひんやりして気持ちいい。
入ってくる舌も冷たい。
でもそれは一瞬ですぐに熱をもって私の口内で蠢く。
それと同時に、太ももに触れられたてっちゃんの手。
ワンピースの布越しに手の平を撫で付けながら、ゆるゆる行き来させて…。
私の心臓は一気に忙しなく働く。
唇と、太もも。
与えられる熱は、私から力を奪ってゆく。