第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
てっちゃんとこの部屋で過ごすのは二度目。
この前は、傷ついた私を慰めてくれるための夜。
今夜は、二人が愛し合うための夜。
部屋へ入ってすぐ、私はいつもどおり、お風呂の給湯ボタンを押した。
「バッグ、適当に置いて?」
「ああ」
てっちゃんは持っていたボストンバッグをリビングの隅に置く。
あの後、お泊まりの準備だけ取りにてっちゃんちへ寄って、その足で我が家へやってきた。
キッチンに入って冷蔵庫を開ける。
お土産に買ったワインを中へ入れて、代わりに缶ビールを取り出す。
今日は車での移動だったから、てっちゃんはお酒を一切飲んでいない。
二本それを手にして、リビングへ。
「てっちゃん、ビール…」
"飲む?" と言いかけたその時、目の前に影が落ちて、彼の顔を見上げる隙もなく…
ふわっと体を包み込まれた。
「捕まえた」
……
わ……
どうしよう……
ドキドキして
フワフワして
ゾクゾクする……。
両手に缶ビールを握ったまま、ただ突っ立っているだけの私。
てっちゃんの広い胸元に顔を寄せて、トクトク動く鼓動を聞く。
首元に埋められたてっちゃんの顔は、なんだか恥ずかしくて見ることができない。
少しの間を置いて、今度は両肩に手を置かれる。
僅かにできた距離で見つめ合うと、唇の端が少し吊り上がるのが見えた。
私、絶対今顔赤い。
また、からかわれる……。
その口からどんな言葉が出てくるのか、思わず身構えてしまう。
けれども、お馴染みの悪ふざけを言う時の顔にはいつまでたっても変化しない。
その代わりに、ゆるりと微笑まれて、それから……。
「可愛い…」
それだけ言って小さなキスが降りてくる。
啄むみたいに微かな音をさせながら、一回、二回…。
三回目のキスをしたところで、私はてっちゃんの腕にまた抱き締められた。