第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
離れたくない……。
このまま、連れて帰ってほしい。
だけど今の流れのままてっちゃんちに行くのは……。
「……ダメ」
「……」
私の顔を覗き込んだてっちゃんの指が、唇に触れた。
親指でフニフニとノックしたり、左右になぞったり、そこを弄る。
私の淫らな本音を導き出すように、ゆっくりと、厭らしく。
「あんなキス、しておいて?エッチな声も出しといて?」
何て意地悪…。
私の本心を見透かしてる。
ダメなの。
あんなキスをしても、あられもない声を出しても…。
「だって……今日の下着、可愛くない……」
小さくそう言えば、てっちゃんは一瞬黙りこくった。
「………そこ?」
そこ、大事なの。
今日は白いカットソーを選んだから、透けないように身につけているのは、色気とは無縁のベージュの……。
こんな状況でも色んなことが頭を駆け巡るのが女なの。
確かに男の人は、下着の中身の方が重要なのかもしれないけど。
少しでもてっちゃんに綺麗に見られたいって思うのは、おかしい?
「えっと…だからね、……てっちゃんち、じゃなくて…」
てっちゃんはフッと笑って片方の眉を上げる。
私の言いたいことがわかったみたいで、ジッとその目で見つめてくる。
「梨央ちゃんち、ならいい?」
「うん…」
「それは、下着姿も楽しませてくれるってことで、オッケー?」
…………。
ハードル上げちゃった。
私のバカ…。
「てっちゃんて……結構、エッチ…?」
おずおずと、そう聞いてみる。
そしたらそれはそれは艶っぽい低い声で、耳元でゆっくりと、とんでもないことを…。
「ううん。すっ……げー、エッチ」
ああ…ダメ……。
白い歯を覗かせてキュッと口角を上げる、Sっ気たっぷりのその顔は、私の心をいつも乱す。
この後彼の手の中で転がされるって、容易に想像できてしまう。
そんなの悔しいのに、転がされるのを待っている私がいる。
体が熱い……。
加速する鼓動の理由はふたつ。
ひとつは緊張。
そして、それとは真逆の淫らな期待。
この先に待ち構えているのは、一体どんな時間?
今よりももっと、愛してくれる?
ねぇ、てっちゃん。どうかお願い…。
こんなこと考えている私を知っても、嫌いにならないでね……?