第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「え……。赤葦……くん……?」
「ああ」
「嘘……」
「なーんで嘘つかなきゃなんねぇの?汐里はずっと赤葦のことが好きだったの。彼女がいるってわかっててもやっぱり好きで、ずっと悩んでたんだよ」
木兎と俺はいつも汐里の相談役だった。
飲みに行けば、酒の弱い汐里はいっつも赤葦のことばかり愚痴って…。
「でも赤葦のヤツ、彼女と別れたって言ってたじゃん?だから花火に誘ったんだよ。初めて汐里から。そしたらオッケーもらえたらしくて。赤葦の好きそうな浴衣買いたいって言うから付き合ってただけ」
今まで行動に移せなかった分、どうしていいかわからなかったみてぇだけど。
まあ、取り合えず二人で会うところから始められたらしいし。
俺も木兎も少し肩の荷が降りたっつーか。
って、それは置いといて。
汐里とのこと、誤解してたから……?
さっき俺を拒絶したのは、それが理由か?
「てっちゃん、は……?汐里ちゃんのこと…」
「あいつは友達。本当そんだけ。つーか俺今、梨央ちゃんにキスしようとしたよな?どういう意味か、わかんだろ?」
「わかんないよ…」
「ハァ?」
「……勘違いだったら、嫌だもん。傷つくの……怖い……」
瞳が揺れてる。
少しだけ俺を見て、それから視線を逸らす。
何だよ、それ?
梨央ちゃんてこんなに臆病なのか…?
てか、キス避けられた俺のハートもかなり傷ついたんですけど?
勘違いなんかじゃねぇよ。
俺の頭ん中はいつだって梨央ちゃんでいっぱいで…。
今だって、触れたくてたまんねぇ。
そんな不安げな顔すんな。
全部俺が取っ払ってやる。
梨央ちゃんには、ただ笑っていて欲しいだけ。
君が笑ってくれるなら……言葉にすることなんて、何も難しいことじゃない。
「俺は、梨央ちゃんが好きだ」