第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
公園に向かう途中、コンビニに立ち寄る。
入口前の駐車場は埋まっていた。
少し離れた場所に車を停め、二人分の飲み物を買いに行く。
目的地の公園は実際に行ったことはなくて、車のナビで場所を確認する。
「20分くらいで着くかな。大丈夫?」
「うん。ねぇ、曲違うの聴いていい?」
「ああ、いいよ。どれにする?」
適当に触ったナビのタッチパネルには、昔流行っていたアーティストのアルバムが表示された。
「わ、これ懐かしい!私中三だった」
「そうそう、俺が中一の夏。梨央ちゃんが引っ越してきた頃だったよな」
「すごく流行ったよね!ドラマの主題歌だったし」
出発もせずに、お互い飲み物を飲みながら当時の話に花を咲かせる。
見ていたドラマとか聞いていた音楽とか。
二つの年の差じゃ、大して変わんねぇんだな。
流れていた曲がラストのメロディーを奏でたところで、梨央ちゃんが呟く。
「私ね、これも好き」
イントロを聞いただけでピンとくる。
切ないバラードだ。
"遠い場所にいた君に、今なら手が届きそう" ―――。
そんな歌詞が乗った歌声に、思わずドキリとする。
今なら
君に
梨央ちゃんに
手が届くか……?
「あ…」
小さく梨央ちゃんが声を漏らした。
「どうした?」
「ペットボトルのフタ、落としちゃった…」
助手席の足元を探しているけれど、見当たらないらしい。
俺もそこを覗きこんでみる。
「あ、あった。ヒールで踏んじまうから待って。こっちから拾う」
サイドブレーキを跨いで手を伸ばし、フタを拾う。
「汚ねぇから捨てた方が…」
そう言いながら足元から顔を上げると、梨央ちゃんの瞳とぶつかった。