第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
果樹園を出た俺たちは、ここの農家が営む近くのギフトショップにやってきた。
店内で食事もできるし、旬のフルーツを使ったスイーツもある。
年中店先に並ぶのは、果実酒とジャム。
「梨央ちゃん。酒選んでくんない?一本買ってく」
「うん。私も買おっかな」
俺は運転があるから、梨央ちゃんに試飲を任せる。
数種類ある酒を飲み比べて、その中から一本、さくらんぼのワインを選んでくれた。
そのあとは店内で遅い昼飯。
運ばれてきたサンドイッチを平らげた後、梨央ちゃんがメニューを見ながら声を弾ませる。
「ねぇ、タルト食べよ!」
さくらんぼのタルトは、今ここの売りらしい。
鮮やかな赤を強調したタルトの写真が、店内の壁にも貼ってある。
「よく食うなぁ。太っても知らね」
「半分こ。ね?」
半分こ、とか。
そんな可愛く言われたら断れねぇし。
コーヒー二つにタルトがひとつ、注文してからすぐにテーブルへと運ばれてきた。
「美味しいね」
「そーだな」
ひとつの皿から、二人で分け合って食べる。
カップルっぽくて嬉しいんだけど、ここで疑惑が…。
梨央ちゃん、付き合ってない男とでもこんなことすんのか?
例えば、研磨…は当たり前にしそうだな。
…………ツッキーとか?
この前だってケーキ食べさせてやってたし。
ツッキーめ…。
女に興味アリマセン、みたいな顔して腹立つわー。
って、何か俺根に持ちすぎ?