第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「これ、未使用?」
梨央ちゃんが聞く。
何?そんなこと聞く余裕あるわけ?
「さっき汗拭きまくった」
ってのは嘘だけど。
「げー。ま、いいか」
梨央ちゃんは目元を少しタオルで押さえる。
げー、とか言わないの。
「とにかくね。そんな感じでここに来たから、てっちゃんと研くんが一番最初のお友達になってくれて、すっごく嬉しかった」
「それは僕たちもですよ。綺麗なオネーサンとお近づきになれて嬉しかったし」
「あー。てっちゃん、こういう所がモテるのかな?なんか納得」
真面目モードは解除されたようで、いつもどおりの明るい梨央ちゃんになった。
「なぁ、梨央ちゃん引っ越す前に何かやらね?たこパでも鍋パでも」
「え!楽しそう!よかったらうち来る?土日でもお母さん仕事入ってること多いし。気遣わなくていいよ?」
梨央ちゃんも嬉しそうに乗ってきてくれた。
でも、梨央ちゃんちに誘われるのは想定外。
俺たちは漫画とかでよくある、昔からの幼なじみではない。
お互いの家で飯食ったり、家族ぐるみの付き合いがあるわけでもない。
だから、梨央ちゃんちにお邪魔すんのも初めて。
なんかすげー楽しみになってきたんですけど。