第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
飲み物とお菓子を買って車に戻り、改めて出発だ。
流してる音楽の話をしたり、どれだけさくらんぼ食べられるだろうって声を弾ませたり。
梨央ちゃんもこのデートを楽しんでくれてることがわかって嬉しくなる。
信号待ちに当たり、梨央ちゃんが持つコンビニの袋に目を向けた。
「なぁ梨央ちゃん。ポッキー食いたい」
「はーい」
さっき買ったポッキーを取り出して、袋をピリピリ破ってる。
俺はフロントガラスから信号を気にしたまま、左手だけを梨央ちゃんの方に差し出した。
途端、唇にトンッと何かが当たる感触が…。
「運転中だから。食べさせてあげる」
「……え?」
「あーんして?」
「……」
何だ、コレ……。
もうカップルっぽくね?
俺、勘違いしてもいいか?
こんなに俺の心を乱しといてその気はありません、なんて言うなら。
梨央ちゃんは小悪魔どころじゃねぇ。
詐欺師だ!!
差し出されたポッキーをポキポキ食べ進めていく。
ところが梨央ちゃんは、一本食べ終わるなり次から次にポッキーを差し込んでくる。
「ちょっ、待っ、早ぇ!つかそこ鼻!てか信号青になったから!」
「あはは!はい、安全運転でお願いしまーす」
楽しそうに笑う顔は、出会った頃のまんま変わらない。