第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「はぁ…。認めたくなかったんですけど。辛くなるから」
「うん」
「あなたのせいです」
「うん」
「慰めてください」
「うん。……あ、じゃあケーキ食べる?」
厨房に入り、ショートケーキをお皿に乗せてフォークを添える。
すぐにまた、ツッキーの元へ。
「どうぞ」
ツッキーはジッとそれを見ている。
ケーキじゃ慰めにはならない……かな。
「あとは、何して欲しい?」
四つ年下とは思えないほど大人びてるツッキーだけど。今は、幼く見える。
「食べさせて」
「え?…うん」
フォークでケーキの端を掬って、彼の口元に差し出す。
小さく開かれた口の中に入れると、綺麗な形の唇をキュッと結んだ。
「美味しい…」
そう呟いて、少しだけ笑う。
よかった。食べてくれて。
「今度は苺食べたい」
「はいはい」
苺を刺して、丸ごと口の中に。
モグモグ食べるその姿は何だか可愛い。
「ツッキー、体大きいのに小動物みたいだね」
「ハァ?本当失礼な人ですね」
「え!何で怒るの?誉め言葉だよ?」
「腹立ったし今日はちょっとやさぐれてるんで。本当のことは教えてあげません」
「……何のこと?」
「さあ?自分で答え合わせしてください」
そう言って組んでいた腕を解き、私からフォークを奪い自分の手でケーキを食べ始めた。
何だかよくわかんないけど。
ちょっとは慰めになったかな?
気持ちが届かないって、切ないね。