第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「黒尾さん。あのじゃじゃ馬、どうしたら手なずけられるんですか?」
「もう少し優しくすればいんじゃね?」
「嫌です」
即答するツッキーにてっちゃんは呆れ顔。
ヤレヤレといった感じで、みんなが騒いでいるテーブルに足を向けた。
「お姫様のご機嫌とってくるわ。梨央ちゃん、次の火曜空けとけよ?ちょっと話したいこともあるから」
「あ、ねぇ!」
呼び止めようと思ったけれど、てっちゃんは行ってしまった。
汐里ちゃんのこと聞けなかったし、それに話したいことって、何……?
「はぁ…」
ツッキーの存在も忘れてため息を漏らす。
「何て顔してるんですか?」
「……悪かったわね、こんな顔で」
「デートに誘われてため息って。ワケわかりません」
「だって…。てっちゃん、汐里ちゃんと付き合ってるんでしょ?二人で会うなんて悪いもの」
「ハァ?」
ツッキーは怪訝な顔をして私を見たあと、納得したように頷いた。
「梨央さんて結構バ……抜けてるんですね」
「あ!今バカって言おうとしたでしょ?」
「……」
「そんなに冷たいと、汐里ちゃんに嫌われちゃうよ!」
そう言った途端、ギロッと睨まれる。
「もう嫌われてるんですよ、残念ながら…」
でも怖くなんかなくて。
その視線ほど言葉に覇気もなくて…。
何だかすごく、悲しそう。
今「残念ながら」って言ったよね。
それは、自分の気持ちを認めたってこと?