第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「梨央ちゃん。俺、運ぶわ」
「ありがとう」
「わりぃな、さっきから動いてばっか」
「ううん。南さんも楽しそうだし。よかったらゆっくりしてって」
こうやって気遣ってくれるところ、やっぱり優しいよね。
「あのさ、前チラッと言ったじゃん?ドライブ行こうって。今度梨央ちゃんが休みの日に行かね?」
「それって…二人で……?」
「ああ、二人で」
修一さんと別れた後、気晴らししようって誘ってくれたドライブ。
嬉しいけど、でも……。
汐里ちゃんが気を悪くするじゃない……。
「ねぇ、てっちゃん。汐里ちゃんと、」
「梨央さん」
その時、私の声を遮るように名前を呼ばれた。
そこにいたのは、ツッキー。
なーんか怖い顔…。
「何…?どうしたの?」
「ほんと汐里腹立つから。ここで飲んでいいですか?」
ここは厨房の隣のカウンター席。
まあ、それは別にいいんだけど。
ツッキーは椅子に腰掛けるなり、持ってきたグラスをクイッと傾ける。