第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「ちょっと光太郎さん、こぼさないで!リエーフくんも!」
汐里ちゃんはテキパキとテーブルの上を拭きながら木兎くんたちを叱ってる。
(しっかりしてるなぁ…)
そのやり取りを聞きながら洗い物を済ませ、デザートの用意をしてみんなの元に戻った。
「よかったらアップルパイ食べませんか?」
カットした丸いアップルパイを、テーブルへ。
「おー!食べる!食べる!うまそーっ!」
「あっ!木兎さん、一人一個ですよ!」
木兎くんとリエーフくんが取り合う傍ら、研くんもゲームを中断して手を伸ばす。
「いただきます」
「どうぞ」
そもそも、研くんが好きだから作ったんだし。
研くんは私のアップルパイを気に入ってくれているみたいで、差し入れするといつも美味しそうに食べてくれる。
「美味しい…!アップルパイって難しそうなのに、梨央さんすごい。さすがプロですね」
「生地から作ると確かに手間掛かるけど。市販のパイシートでも簡単にできるんだよ」
「本当ですか?私不器用だけど、出来るかな?」
「よかったらレシピ書こっか」
「はい、ぜひ!」
「汐里、相当不器用ですよ?」
「もう、またそういうこと言う!作ってもツッキーにはあげないから!」
「こっちから遠慮するよ。お腹壊すと嫌だし」
うん……何かもうわかった。
この二人はいつもこんな調子なんだね、きっと。
「月島、言い過ぎ」
「……」
「優しいなー赤葦さんは!ツッキーと違って!!」
みんなのやり取りを背に、また厨房へ戻る。
人数分のコーヒーを乗せたトレイを持ち上げた時、今度はてっちゃんがやってきた。