第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
それからもみんなのラリーを見ながら、「はぁー!」とか「ふえー!」とか、ひたすら可笑しな感嘆のため息がこぼれる。
そんな中、突然コートから外れた流れ玉が勢いよく汐里ちゃんに向かって飛んできた。
「汐里ちゃ…っ」
「きゃっ…!!」
咄嗟に顔を背けた汐里ちゃん。
汐里ちゃんの顔の目の前には、ツッキーの手。
弾けたボールはコロコロと床に転がっていった。
「大丈夫!?汐里ちゃん」
幸い、汐里ちゃんには当たらなかったみたい。
良かった…。あんなボール顔面に受けたら顔もげちゃう!
「大丈夫です…。ありがとう、ツッキー」
ツッキーはチラッと汐里ちゃんを見下ろして、小さくため息をつく。
「誰かさんに見とれてポーッとしてるからでしょ?」
「……!してないし!どうしていつもそんな嫌味言うの?」
「嫌味じゃない。事実」
あーあーもう…何言ってんのツッキー。
好きな子をいじめちゃうタイプなんだね…。
「ごめんっ!!大丈夫か!?汐里!」
「大丈夫です」
木兎くんが走ってきた。
ワタワタと無事を確認するように、汐里ちゃんの顔を覗く。
「ホントにホントか!?」
「ホントにホントです」
「マジ焦ったわ…。あ、ツッキー交代な」
「はい」
木兎くんの代わりに、今度はツッキーがコートに入っていった。
「私、ツッキーとは相性悪いんです」
唇を尖らせて汐里ちゃんがこぼす。
汐里ちゃん、完全に勘違いしてる。
何かツッキーが不憫に思えてきた。
好きな人の視線が他に向いてるって、辛いよね。
その気持ち、よくわかるよ。