第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
コートの端に残されたのは、私と汐里ちゃん。
それから、3対3から一人あぶれたツッキー。
間近で見るみんなのプレーは迫力があって、本当にすごい。
木兎くんやリエーフくんや南さんのスパイク。
研くんや赤葦くんのトス。
どうしたらあんな風にボールを操れるんだろう?
ロクに運動してこなかった私とは次元が違う。
吸い込まれるようにそれを見ていたら、てっちゃんのブロックが決まった。
「わ!てっちゃんすごーいっ!!」
思わず声が上がってしまう。
「ウェーイ!」
てっちゃんも私の声に気づいてピースサインを送ってくれる。
あ…。ちょっとはしゃぎすぎたかな…。
ちらっと汐里ちゃんを気にしてみたら、キラキラした笑顔で声を弾ませる。
「カッコイイですよね!」
って。
素直な子だな、汐里ちゃん…。
「テツさん、バレー上手いし人当たりもいいから、大学の時も腹立つくらいモテてたんですよ」
腹立つくらい?
「でもいっつも女の子に囲まれてる割に変な噂とか全然なくって。たぶんつまみ食いとかもしてないんじゃないかなー、あれは」
つまみ食い?
何か、汐里ちゃんってサバサバ系?
「昔からそんな感じですか?」
興味津々といった感じで聞いてくる汐里ちゃん。
でも私、てっちゃんの女性関係とか全然知らないや…。
「あー…その辺はよく知らなくて。でも、バレンタインは沢山もらってたみたい」
「わ、やっぱりそうなんですね」
ふんわりした可愛い笑顔で汐里ちゃんはうなずく。
彼氏がモテるってわかってても、全然動じてない。
信用してるんだろうな、てっちゃんのこと…。