第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
少しの沈黙の後。
てっちゃんは打って変わって間延びした声を出した。
「さ、そろそろ帰ろうぜー?」
席を立ち、レジヘ会計を済ませに行く。
その背中に目を向けてみるけれど、長くは見つめていられなくて思わず瞼を伏せた。
「ほら。僕が手出したら許さないらしいですよ。良かったですね」
それだけ最後に言うと、ツッキーもこの場を去っていく。
ツッキーは、私のしてきた恋愛何も知らないから。
今のやり取りだけ聞いたら誤解するのかもしれない。
もう、認める。
てっちゃんのことが、好き。
でも、言いたくても言えない想いってあるじゃない。
私がそれを言ったら、てっちゃんを困らせる。
てっちゃんは優しいから、私を傷つけない言葉を必死に探す。
大人の恋は、自分さえスッキリすればそれでいいってワケじゃ、ないでしょう?