第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
ちょっとちょっと…。
からかうのが好きなのはツッキーも一緒じゃないの。
てっちゃんは口元だけで微かに笑う。
いつもの不敵な顔。
挑発することはあっても、されることなんてないって顔。
大体、汐里ちゃんがいるのにそんな挑発したって意味なんて
"ない"。
そう思う手前。
てっちゃんはまた、私の心を乱してくれた。
「問題大アリ。そんなふざけたノリで梨央ちゃんに手ぇ出すとか、許さねぇからな。月島」
顔は笑ってる。
だけど言葉つきは棘を含んでいて、空気が凍る。
てっちゃんは修一さんとのこと、全部知っている。
だから私がもう傷つかないように、こんな風に言ってくれてるんだと思う。
だけど、これはダメ…。
やめてよ。
そんな優しさ、苦しくなるだけ。
これ以上、私の心を持っていかないで。