第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
「好きなんデショ?黒尾さんのこと」
私の腕をグッと引いて、今度はツッキーが私に耳打ちしてくる。
囁くようなその甘い声と、遠慮なく核心を突いてくる言葉。
思わず固まった。
"好き" ―――。
そんなんじゃない、なんてもう思えない。
だけど気持ちを認めてしまったら苦しくなる。
だから考えないようにしたいけど、それは無理な話で。
ここ最近、隙あらば頭の中に入ってくるてっちゃんと汐里ちゃんに、心を掻き乱されてる。
そんなモヤモヤした気持ちを打ち消したくて、悟られたくなくて。
私はムリヤリ笑顔を作った。
「からかわないでくれる?」
「先にからかったのはソッチ」
だから私はからかってないって。
ツンとした顔をして、ツッキーは視線だけをこちらに向ける。
よっぽど気に障ったんだな。
でも、「ごめん」なんて言われたくないだろうし。
「よかったら、またケーキ食べに来て?私のおごり」
コッソリそう言えば、ツッキーは眉間のシワを少しだけ動かした。
「……気が向いたら」
あ、許してくれた?
ちょっとだけ可愛いかも…なんて。
「なーにイチャイチャしてんの、そこ!」
え?
南さんの声に顔を上げてみれば、私とツッキーを見るてっちゃんの瞳と目が合った。
少しだけ険しい顔をしてる。
「やだな、南さん。してませんよ、イチャイチャなんて」
そう。大っぴらには言えない話をしていただけ。
それなのにツッキーは…。
「この前赤葦さんには釘刺してたけど、僕は何も言われてないし。イチャイチャして問題あります?黒尾サン?」