第1章 近くて遠い君 ※【黒尾鉄朗】
中学に上がってからは、今までより何倍も練習がキツかった。
体力はそこそこ自信あったけど、それじゃあ全然足りないことに気づく。
近所の公園の周りを走るのは、もう日課になっていた。
そんなある日の夕方。
公園のベンチに女の子が一人で座っていた。
もうすぐ暗くなるのに、ただ一人で何をするでもなく、ポツンと。
俺は当然のようにそこへ近づいた。
『梨央ちゃん。どうしたの?』
『!?』
肩をビクッと揺らして、梨央ちゃんは顔を上げる。
『……どう、した?』
その瞳からは、涙が溢れていた。
『……っ…』
泣いてる女の子にどうしたらいいかなんて、全くわからなかった。
ジャージのポケットにタオルを入れたのを思い出して、それを渡す。
『使ってないから綺麗だよ』
『…っ、あり……がと…』
『学校で…何かあった?』
転校生だから、馴染めないことやもしかしたらイジメみたいなことがあったのかもしれない。
そう思って聞いたけど、梨央ちゃんは首を振る。
『うちのこと……だから…』
梨央ちゃんはお母さんと二人暮らし。
何度か挨拶したことはある。
少し梨央ちゃんと似ていて優しそうなお母さんだ。
お父さんの話をする梨央ちゃんは、見たことがない。
関係があるのかもしれない。
でも、子どもながらにそこから先を聞いてはいけない気がした。
俺は梨央ちゃんが落ち着くまでそばにいると、暗くなった道を二人で一緒に帰った。