第6章 初秋
風邪を引いた割に全然元気そうなヴィクトルは、ところで……とこちらを向いた。
「ユラはなんでスケートやめたんだい?」
その話か。ヴィクトルは勇利と違ってちゃんと言葉にして聞いてくるからちょっとやっかいである。別に話したくないとかではないけど、……ちょっと恥ずかしいよね。言うけどね。
「勇利の滑りを見たら自分は表現者じゃなかったってことに気づいたんだ」
「やめた時はまだ子供だったんだろう?そんなことわかるの?」
「うーん、自分で褒めちゃうけど、そこそこ技術力はあったんだよ。年齢の割にはってレベルだけど」
体幹が安定していたし、体もある程度柔らかく、逆に柔らかすぎないのでジャンプも軸が綺麗だった。練習も嫌ではなかったし、自分がするべきことはコーチに言われればすぐにこなしていた。
「でも勇利が楽しそうに滑ってるの見て、俺のスケートはただの作業なんだなあって」
そこで気づいたのだ。このまま技術だけが身について、その先を俺は求められない。ぼんやりとした感覚だったけど、俺はそれをすぐに受け入れた。悔しくはなかった。自分ができないことだって理解できたから。
「それと同時に勇利のスケート見るのがすげえ好きになって、それなら自分のスケートに費やす時間を勇利のスケートを見る時間にしようと思ったんだ」
「…随分と難しいことを考える子どもだね」
「難しいか?俺が勇利に惚れたってだけだと思うんだけど」
そう口に出した瞬間、ガタッ!!!と言う音と小さく「やば」という声が聞こえた。どう考えても勇利だ。こちらにバレているのがわかったのか、勇利は観念したようにドアを開けて部屋に入ってきた。
「あの…その……メニューこなしたから戻ってきたんだけど……」
「おかえり勇利、どうしてそんなに顔が真っ赤なんだい?」
ヴィクトルが指摘した通り、勇利は顔を赤くしてちょっともじもじしていた。なんだ気持ち悪い。
「うぇえ!?だってユラが僕に…ほ、惚れたって」
「お前なんでそんな局所的にしか聞いてないんだよ!!!」
ヴィクトルから話の流れを聞いた勇利は紛らわしいんだよ!!!!と叫んで部屋を出て行ってしまった。勝手に聞き耳立てといて……。