第5章 夏
もちろん最後にはお約束の線香花火。1回ヴィクトルに遊び方を教えながら練習で火をつけて、2回目から本番ってことで真剣勝負。負けた人はバケツの片付けってことになったので3人ともマジで真剣だ。水とゴミでドロドロのブツを片付けるのは見るからに大変である。
「せーので火つけるぞー」
「オーケー、負けないからね」
「ヴィクトル初心者でしょ、僕負けない自信あるから」
「手先の器用さには自信があります!はい、せーの!」
3人で一斉に線香花火に火をつけ、ふわりと火花が花開いた。パチパチ、と静かな火薬の弾ける音と、波のさざめきだけが聞こえる。
「日本に来てよかったなあ」
ふいにヴィクトルが思わず、と言った様子で一言こぼした。あ、勇利泣きそう。次第に火花がなりを潜め、オレンジ色の火玉がぼんやりと灯る。さー持久戦持久戦。いつもは自然と怖い顔になってしまうけれど、今日は自然と笑顔になってしまっていた。勇利はやっぱり泣いてる。ヴィクトルは……あっ!?ヴィクトルも泣いてる!?
銀色のまつ毛が縁取る右目から、ちょっとだけ涙の光が見えた気がした。
動揺で火玉を落としそうになるが、それよりはやく勇利の火玉が落ちて、続いてヴィクトル。俺のもそのすぐ後に落ちた。
「あー終わっちゃったね」
「まだあるよー」
買ったセットの数だけ線香花火が残っている。ヴィクトルも俺も、泣き止まない勇利に寄り添いながら線香花火の光を見つめ続けた。
ちなみに終わった後、結局バケツは俺が片付けた。わかる。