第9章 騎士達の凱旋
「––––っと……?」
声を落とした三島が、その外套の内ポケットに入っていた携帯を取り出す。
着信だった。
「あン? 出なくていいのかよ、三島。 手前ェの女に対する矜持が崩れるぜ?」
中也が人の悪い笑みを浮かべながら、揶揄うように言った。
三島は、そんな中也をいつもの笑みで返す。
「そりゃ、出たいとも。
この銃声がなければだが」
「あァ……」
そりゃそうだわな、と中也が頷く。
相手は一般人か、そうでないとしても
この中で電話をするには少々喧しい。
「……チ。太宰はこの前、頭の上を弾が飛んでるっつうにピクニックなんて始めやがってよ」
三島が、仕方なくメールで返信をしてから中也の零した愚痴を拾った。
「まあ、ほら、そこはそれ。 僕と太宰は五大幹部だから。
上下の厳しいマフィアでは、上からの無茶振りも無理難題も絶対ときた」
そうくすくすと笑う三島だって、女沙汰でかなり痛い目を見たはずなんだけどな……
何を呑気に愛なんて語ってンだか。
「………」
「三島?」
和かな笑みを浮かべていた三島が、もう一度掛かってきた電話に眉を顰めたように見えた。
「ごめん。 中也、電話は太宰からだ。
今のタイミングなら、多分大事な事なのだと思う」
「出ろ」
鳴り響く散弾銃の雨音と、床を打ち付ける空薬莢の鈴鳴りの音。
「……太宰?」
『嗚呼……三島君』
電話の向こうから聞こえた沈んだ声に、三島も「嗚呼」と悟る。
中也と自分の胸中を満たしていた、慢性的な不安。
『亡くなったよ、二人とも。真綿の方は、もう、多分……灰に』
「いい、言わなくとも判るさ」
太宰の背後からは、雨の音がした。
種類は違えど、向こうもこっちも雨に打たれ、嘆いているのか。
「……そう。……そっか。
真綿だって、あの起因性異能力は万能じゃあない」
三島が中也にハンドサインを送りながら、敵の核に向かう。
『……なんでそんなに落ち着いている?』
太宰の涙声が耳朶を打つ。
「……厭だな、僕は下品に過去を嘆くことをしないだけだ。
ただ––––––」
三島の濁った紺碧の瞳が、中也を捉えた。
「……あの花園が、本当に僕だけの檻になってしまったなって」