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威 風 堂 々【文豪ストレイドッグス】R18

第9章 騎士達の凱旋


同時刻。


雨の降る、灰色になったヨコハマのどこか。





「………だから……死ぬよって…言ったのに」


鼠色の空は、亡くなった人たちを嘆くように大泣きしていた。



ばしゃりと濁った水溜まりを踏みつけにし、傷だらけになった何かを拾い上げる。



純白の着物は彼女自身の血で汚れ、彼岸花の花弁が舞っているようだった。





「君は死んだ。

あの時会った、君という存在は、こうして幕を下ろした。

お疲れさま。



じゃあ、名もない君という透明な存在に、

この稀代の名探偵が残酷なことを告げよう」




煤で汚れた白い頬を擦り、汚れを落とす。


雨に浸されたその華奢な身体は冷え切り、ぼろぼろになっていた。



雨音が強まり、その少年は傘を捨てて、両手でゆっくりと彼女を抱き上げる。




「おはよう、名も知らない君。

まだ色のない、無価値な君。


あの時 隣にいた、未来視の彼を救うことは叶わなかった。

でもこうして、名も知らない君のことは、まだ救えるかもしれない」



冷たくなった身体は、まだ柔らかく、生きている音がする。

吐息は今にも消えそうで、その手が動き出すこともなかったけれど。



「君は死んだ。
そして新たな生を得るんだ。

与えられた生ほど、生易しくて残酷なものはないだろうね。
この僕もそうだった。

社長に出会わなければ……」



血に濡れたナイフとスカルペスを地面に置いて、そこら辺に咲いていた花をそれに添えた。

せめてもの手向けにはなるか。




「おはよう

君にあったかもしれないイフをあげる」




ハンチング帽を被ったその名探偵は

自分で作った小さな『お墓』に背を向けて、腕に抱いた彼女とともに


雨の降る世界へと走って出て行った。


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