第9章 騎士達の凱旋
ヨコハマの、青白く屹立したポートマフィア本部高層ビル。
「『その者、泰然自若なる所作にて紛々たる万事、爆竹の如くせしむる也』か……」
最上階の首領執務室にて、森が机に肘をつきながら
眼下の机上にある銀の託宣をちらとだけ一瞥した。
この紙は、あの赤髪の彼が持っていたものを回収したやつだ。
「首領」
森の目の前に立つ部下が、目を細めて問う。
切りそろえられた前髪の下には
どこか郷愁を掻き立てられるような、淡い鳶色の眼が鎮座していた。
「……幹部の太宰様と真綿様が消息を絶って、すでに二週経っております」
その部下が資料片手に淡々と告げた。
「そろそろ実践的な幹部候補を召し上げる頃合いかと」
「そう……だねえ…」
空いた幹部の席は二席。
他三席は今まで通り、紅葉君とA君と三島君が担うとして……と
森がそんなことを考えながらも、手元の銀の託宣を折った。
「……君はどう思う?」
「は」
唐突に質問を押し付けられた部下が、細めた瞳をゆっくり開く。
「……太宰様のところは空席に、真綿様は……
嗚呼、たしか中也様が継ぎたいとの事でした」
「そう……」
滔々と、端的に言う部下が、目の前にある紙飛行機を見つめる。
……まさか、あの紙切れは銀の託宣か。
そう思うと頭痛がした。
森が、机上に散乱した報告書を眺めた。
そこに計上された金銭的損害、それに失った
才能ある部下たちという損失を全て合計しても、
それを補って余りある利益を組織は手に入れた。
太宰の失踪も、かの暗殺者のまだあるイフも
全て織り込み済み。
全て全て、自身の論理的に考えられた最高の結果に収まっていた。
ひゅう、と宙を頼りなく漂う銀の紙飛行機が
その部下の足元にぱさりと乾いた音を立てて墜落した。
「……詰まらなくなるねぇ…」
森が自覚なく漏らした言葉に、部下は顔を変えることもせず一礼する。
「……では、私はこれで」
「嗚呼、ご苦労様。三島君にも宜しくね」
「は」
どうやら三島の直属部下らしい––––
肝の据わった、反応に薄い部下が
ぱたんとドアを丁寧に閉めた。