第9章 騎士達の凱旋
––––「織田作っっ!」
太宰は洋館を駆け抜けて、舞踏室に飛び込んだ。
そこに至るまでに、何度 死体を目にしただろう。
歓談室は滅茶苦茶に 破砕され、焼け爛れた黒服たちやミミック兵の死骸が積んであった。
「太宰……?」
そう弱く答えた織田作の胸は、ジイドの撃った弾によって貫通し
一言喋るだけで血がせり上がる。
どう見ても致命傷だった。
「莫迦だよ織田作……君は大莫迦だ」
「嗚呼……」
「こんな奴に付き合って死ぬなんて莫迦だよ」
冷たくなってゆく織田作の身体に、ぽたぽたと太宰の涙が落ちる。
嗚呼……
––––この酸化する世界の夢から
醒めさせてくれ……
織田作はもはや首を向けるだけの気力は無い。
視線だけを太宰に向け、弱く微笑んだ。
その顔は、支払った代価に見合った事を成し遂げた人間だけが浮かべるような…
ある種の満足感があった。
「太宰…言っておきたい事がある」
「駄目だ、止めてくれ。
まだ助かる、君は助かるから。
だからそんな風に……!」
首を振る太宰の服の袖を、血に濡れた手で掴んだ。
「聞け、太宰……
お前は言ったな、暴力と流血の世界にいれば、生きる理由が見つかるかもしれないと」
「嗚呼、言った。言ったが今はそんなこと…」
織田作は細く息を吐きながら、血を飲み込む。
「見つからないよ」
織田作に決定的な一言を言われ、太宰の顔がくしゃっと歪んだ。
泣き出す瞬間の子供だ……
「自分でも判っているはずだ……
人を殺す側になろうと、救う側になろうと……
お前の頭脳の予測を超えるものは現れない」
救いようのない人間の世界に
太宰は疲弊し、諦観し、そして嘆いていた。
手に入らない真綿という存在が
どこか達観した三島という存在が
遠慮を知らない中也という存在が
錆び付く太宰の世界を変えることはなかった……
「全部、全部、ここで終わるのかい?
君まで、私の前からいなくなって……っ」
太宰の言葉に、織田作が「嗚呼……」と何かを悟った。
「太宰……お前、真綿の……」
「言わないでくれ…」