第9章 騎士達の凱旋
「––––…手前」
「うん?」
中也がそんな三島へと呟いた声はしかし、数多の銃声によって搔き消える。
「何だい?」
「手前ェが力任せに女を抱くことはねェくらい知ってるが…
それでも手前には、性欲も、今回の事への憤怒にも色がねェ。」
中也の要領の得ない、親しい人くらいにしか理解し得ない言葉に
三島が「ふむ」とだけ言った。
「それだけじゃねェ、寂寞にも憎悪にも色がない。
手前が情に希薄なのは周知だろうが……
それなら、よく真綿の脳を冒せるほどの『狂愛』を持てたな」
常に理性的で物腰柔らかな三島の
まるで花に触れるが如く紳士的な扱いを受ける女が、初見でこいつに落ちるのも判る。
ふわりと結われたミルクティー色の髪が、宙を舞う手榴弾の風に煽られる。
「確かに、僕らが今こうして争い、命を奪う相手は敵だ。
それは紛れもなく。
僕たちポートマフィアにとっての脅威だからだ。
でも、それが憎悪の対象かと問われれば、違うだろう」
三島の声には、女を惑わしてきた甘い響きが篭っている。
ひとたびその怪我の身で出歩いては、初見の女に訳もなく惚れられる事も沢山あった。
ただそこに、三島の気持ちはない。
敵は真っ向から殺意と敵意を剥き出しにしてこちらを攻撃してくるかもしれない。
今まさに。
それと同じなのだとしたら。
「手前ェ、相当 最悪な性根をしてやがる」
「最悪に『相当』の加減を言い足したあたり、
中也は僕を見限れずにいるね」
薄く微笑んだ三島に、中也が舌打ちを零した。
そして、そういう奴だよと笑う。
「彼女たちが僕に泣いて望んだぶんは精一杯愛しているさ。
その後に彼女たちがどうするかは面倒みないけれども」
「……どうするかって?」
中也の問いに、三島が穏やかに笑う。
その問いの答えを言う気はなさそうだ。
「彼女たちにとって、好きな……いや、初見であれ、何であれ。
自分が想いを寄せる男に抱かれることで得られるのは、
何も喜びと愛だけじゃあないってことだ」
今日のこいつは意地悪だった。
自覚のある意地悪は、これ以上 加速することはない。
どこまで優しいままでいるつもりだ。
こいつにほとほと呆れた。