第9章 騎士達の凱旋
同時刻。
歓談室で、二つの命が消えた時。
舞踏室で、二つの命が失われた時。
遠き西方。
敵は情報に寄れば400だが、それは確認できた次第の人数だ。
敵がまだ幾つの手を持っているかは、ある程度の予測しか出来ない。
取り換えの効く黒服達は、指示を飛ばす五大幹部の三島の計画通りに
人数をすり減らしてゆく。
彼は中也の重力操作異能【汚れつちまつた悲しみに】によって
傷ひとつないが、元々の大怪我が硝煙に障る。
「三島幹部! こちら、敵残存率七割です。急いで後方支援に通達を…」
「必要ないよ。君たちは怯えず、厭わず、僕の責任の下に撃てばいいだけだ。」
「しかしっ…」
三島はあくまでも余裕に、そして穏やかな笑みを浮かべる。
「だって、そっちに今、中也が向かっているから。」
どんなに戦況が悪くても…
中也の異能があれれば、きっと、うん、何とかなるのだと思う。
実際、これまでも何とかなってきたのだから。
三島が黒服達を諭しながら、そんな彼のそばで中也は群がる敵を煩わしそうに一掃する。
弾丸という弾丸が、中心核の二人に届く前に墜ちた。
これが、中原中也の異能力だ。
「…あー…、三島の頭の回転は恐ろしいくらい速いから
大丈夫なンだろ、きっと何とかなるんだと思う。」
幹部クラスとなると、その域にいる人物の脳内は、常人のそれとは乖離している。
方向性のぶっ飛んだ考え方を理解出来る人物も少ないと言えてしまうのだが…
「……もしここで手前ェが死ねば、ポートマフィアは一気に格落ちする気がすンだよな」
「…予言なんて、君らしくないよ中也」
弾丸がひしゃげ、二人は敵の領地へと歩いて進む。
「やっぱり、何か感じたかい?」
「真綿のことか」
三島の言葉は真綿だけの身を案じる文言ではなかったはずだが…
中也は真綿限定でそう言った。
「だから三島は、太宰の野郎をあそこに残してやッたんだろ?
どこまで見越してやがンだよ、手前…」
「それについては言いっこなしだよ中也。」
三島の微笑みは、あの花園で偽物の空を見ているときの顔と何ら変わりない。
「でも、きっと、これから先……詰まらなくなる」
細められた紺碧の瞳は、落ち着いた濁りを持っていた。